恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
2.Barricade
小さなアパートのダイニングで、三井俊平(みついしゅんぺい)が【欠席】に丸印をつけていると、風呂から上がった琴子がタオルで髪を拭きながら部屋に入ってきた。
「……行かないの? 同窓会」
俊平の後ろからハガキを覗き見るロングヘアの華奢な彼女は、俊平の婚約者である。
琴子は俊平の元を離れると、キッチンの冷蔵庫から水のペットボトルを取り出す。
もこもことした素材のルームウエアを身に着けているというのに、俊平には琴子がまたひとまわり痩せたような気がして、彼女の身体を心配しながら、けれど明るく答えた。
「行かないよ。……琴子一人にして夜出かけたくないから」
そしてガタッと椅子を立った俊平は、キッチンで水を飲む琴子を後ろから抱き締める。
ごくりと水を飲み込み微笑んだ琴子だが、正直彼女にとって、俊平のこういう過保護な部分はうんざりだった。
「……私なら、平気だよ? それに、友達いっぱい来るんじゃないの?」
「さあなぁ……最近誰とも連絡取ってないから」
「じゃあ、なおさら同窓会で会ったら懐かしいじゃない」
「そりゃそうだけどさ」
俊平はそれ以上何も言わず、琴子を抱きしめたまま、シャンプーの匂いを嗅ぐように彼女の髪に鼻を埋める。
(こういうスキンシップは嬉しいし、ドキドキもするけど……)
そう思いながらも、琴子は自分の中に“煩わしい”の芽が出ていることも知っていた。