恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


琴子と俊平が付き合い始めてもうすぐ三年目。
一緒に暮らしている期間もほとんど同じで、結婚の約束もしていた。

彼女より三つ年下の俊平は、近くの私立高校で教師をしている。
愛情表現がストレートで優しく、ときには自分から琴子に甘えてくることもあり、可愛い年下の彼氏という言葉がぴったり当てはまるような男だった。

けれど、普通の人より体調のすぐれないことの多い琴子と付き合ううちに、俊平の可愛い部分は影を潜め、まるで親かお節介な兄のように、琴子のことを管理するようになった。

食事のこと、体重のこと、自分のいない日中の過ごし方や、睡眠の長さ……等々。

最初の頃はそれも愛しい束縛に思っていた琴子も、次第に疲れてきてしまい、結婚を控えた今になって、彼との間に小さなバリケードを設けるようになってしまった。


「そういえば、今日はどこ行ってたの? ブーツ出てたけど」

「……散歩。家にばかりいても気が滅入りそうだったから」


弁護士に遺言の相談に行っていたとは、いくらなんでも言えない。

それにしても散歩というのはあからさますぎる嘘だったかと琴子は思ったが、俊平はさして気にした様子はなかった。


「ダメだよ、今日は雪で滑りやすかったのに」

「……ごめんなさい」

「外歩いたなら、もう疲れてるでしょ。寝る?」


壁の時計を見上げると、まだ午後十時にもなっていない。

琴子は俊平の腕をほどき、笑顔を作って彼を振り返った。


「子供じゃないんだから、まだ眠くないよ。それより……」


今度は琴子の方から彼の首に腕を絡めて、短くキスをしてから、口を開く。


「俊平は、疲れてない? ……疲れてないなら……しよ?」




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