恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜





以前来たときと内装も雰囲気もまったく変わらぬバーは、まだ寒さの残る季節のせいか客が少なかった。

カウンターに並んで座った二人はオーソドックスなモヒートを頼んで静かに乾杯し、古いロックに耳を傾ける。

夏耶はいつ桐人が口を開くのだろうとずっと待っていたのだが、黙りこくった桐人は酒量が増えるばかりで、六杯目のお代わりを彼が頼んだところで、夏耶の方が痺れを切らした。


「先生……平気ですか?」


やっぱり今日の彼はどこかおかしいと、心配そうに彼を覗き込む。


「あー、ごめん……“ちょっと”のつもりだったんだけど……結構、頼んでたよね俺。待って。何から話そうと思ってたんだっけな」


へらっと笑った桐人が思考を巡らせると、思いのほか頭の回転が鈍っていて、言葉が出るまでに時間がかかった。

それでもようやく覚悟を決めると、彼は胸ポケットのなかから琴子から預かっている小さな機械を取り出し、夏耶の方へ差し出す。


「……なんですか、これ」

「ん……まぁ、なんていうかな。平たく言えば、盗聴器? まぁこれを“聴いてみろ”なんて悪趣味なことは言うつもりないけど……中身に、心当たり、ない?」




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