恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
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『……一回さ、他の男と遊んでみるっていうのはどう?』
二年前の夜、同じバーの、同じカウンター。
お酒を飲んでは卑屈なことを口にして、どんどん沈んでいく夏耶の気持ちを軽くしてやろうと、桐人が口にした言葉だ。
特に深い意味はなかった。ただ、励ましの言葉が他に浮かばないだけだった。
『それは無理だったって、さっき話したじゃないですか。好きになろうと努力しても、結局は――』
『違う違う。“遊んでみる”って言ったでしょ? 好きにならなくていいんだよ。ただのワンナイトラブ』
『ワン、ナイト……』
『ひと晩楽しむだけでも、心は軽くなるはずだよ。ちなみに俺ならイイ夢見せてあげる自信あるんだけどなー』
恋愛なんて、もっと軽く考えればいい。
身体を重ねて、快楽に溺れてみれば、本当に好きかどうかなんてどうでもよくなってくる。
そこに強い想いなど存在しなくても、キスをして、愛してると囁き合うのは、とても楽しいこと。
夏耶だって、それを知れば少しは楽になるのではないかと、桐人は思った。
しかし彼女は黙り込んでしまい、このやり方はいちずな夏耶には受け入れられないか、と、桐人が他の励まし方を頭の中で考えていたとき。
『先生は……相手が、同じ職場の部下……とか。気にしないんですか?』
ふと、夏耶が口ごもりながらそんな質問を投げかけて来たので、桐人はふっと微笑する。