恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


『……沢野?』


ボタンが外れ、はだけたシャツから綺麗な胸板をのぞかせる桐人が、夏耶を抱き起して小さな頭を自分の方に引き寄せる。

彼女はしゃくりあげながらも自分の気持ちを説明しようと、必死に言葉を紡いだ。


『わたし……せんせ、みたいに……楽しむ、なんて……できない……みたい……』


確かに快感は訪れた。けれど、それで満たされたような錯覚を起こすのは、本当に一瞬のこと。

桐人のことは好きだが、それも以前と同じ、仕事のうえでの上司として、先輩弁護士として尊敬する気持ちとしての“好き”に過ぎない。

それなのに、こんな姿を晒してしまうなんて――。
夏耶は、自分のみっともなさが恥ずかしくてたまらなかった。


『……沢野』


桐人の呼びかけを無視すると、夏耶は裸のまま、さっき自分が飲み残したワインに手を伸ばして、一気に煽る。

すると飲み干したそばから次々に涙が湧いてきて、夏耶は床に落ちた服を拾い上げると、桐人に背中を向けて言った。


『ごめんなさい……先生、わたし』

『いや……こっちこそ。泣かせてゴメン。……セクハラで訴えるなら、いい弁護士紹介するよ』

『そんなことしません……先生は、何も悪くないのに』



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