恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
店の外に出ると、桐人は不自然に明るい調子で夏耶に言う。
「……送らないけど、ちゃんとタクシー使うんだよ」
「はい……あの、まだ、聞きたいこと、たくさん……」
「じゃあ、ウチ泊まる?」
「それは……遠慮しますけど」
夏耶が警戒したように言うと、「冗談だよ」と笑って、桐人は彼女に背を向けた。
それからコートの襟に首を埋め、寒そうに身を縮ませながら、片手をひらひらさせて歩き出す。
(……結局、はぐらかされちゃた)
盗聴器のことも、二年前の夜の出来事も……いきなり手を握ったり、抱き締めたりしてきた理由も、ハッキリわからないまま。
このところ、身の回りの人間関係が不安定すぎると、夏耶は夜空にため息をこぼす。
あと二か月もすれば、司法試験が待っているというのに、このままでは勉強に身が入らない。
「恋愛なんて……してる場合じゃない」
俊平のことも桐人のことも、今はとにかく頭から追い出そう。
自分に自信が持てなきゃ、きっと合格なんてできない。
夏耶は唇をきゅっと引き締めて頭上の星をにらみつけると、タクシーを拾うべく大通りに向かって駆けて行った。