恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……具合、悪そうスね」
心配そうに呟く豪太に、桐人も頼りない調子で応える。
「うーん……試験、大丈夫かな」
「根詰め過ぎてるって感じはしますね。でも、同僚なら合格を信じましょうよ」
「まぁね。俺は受かって欲しいと思ってるけど。……でも中野、お前は受かって欲しくないんじゃない?」
ちらりと意味ありげな瞳で桐人が豪太を見た。
けれど豪太はその理由がわからずに、首を傾げて反論する。
「そんなわけないじゃないですか。沢野さん、必死で頑張ってるんだから報われて欲しいですよ」
「ふーん。沢野が受かったら、俺はマンハッタン行っちゃうけど?」
「え……えぇぇっ!?」
桐人の突然の宣言に、豪太は目を剥いて彼のデスクに駆け寄った。
「な、なんですかそれ! 聞いてないです!」
「……え? お前、丈二さんから電話かかってきたときそばにいたじゃん」
「ジョージ……ああ! でもだって、あの時は“当分はここにいる”って!」
「“いつ俺がいなくなっても困らないように”――とも言ったはずだけど?」
淡々と告げる桐人に、豪太はなにか裏切られたような思いがして悲しくなった。
(なんでそんな大事なこと……今まで話してくれなかったんですか)
自分はまだ、扱った事件の数も少なく、一人前の弁護士とはほど遠い。
桐人がいなくなってしまったら、この事務所はどうなるのか。
自分は何を目標にすればいいのか。
豪太はこれから自分が進むべき道が、急に真っ暗になってしまったような不安に襲われた。