恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
例の録音を聞いた桐人は、琴子の心配するようなことはなにもなかったと言っていた。
彼女はもちろんそれを信じているが、それでも夏耶のことについて完全に安心したわけではない。
琴子が盗み見た、高校時代の友人らしき人物から俊平に届いたメールには、夏耶の方が俊平を引きずっているというような文章があった。
同窓会の日には何もなくても、まだ彼女は俊平を諦めていないかもしれない。
それを思うと、また不安の波にさらわれそうになる琴子は、隣に座る俊平の服をつかんで、その不安を隠しながら彼に微笑みかけた。
「俊平。結婚式には、地元の友達もできるだけいっぱい呼んで?」
「え? ……なんで?」
「人数は多い方が楽しいじゃない?」
明るく装う琴子に、俊平は苦笑して応える。
「そりゃそうかもしれないけど……そのぶん色々費用もかさむし」
「それは私が何とかするから、お願い。お友達……女の子も含めて、たくさん、ね?」
急に目の色を変え、切実に訴える琴子の様子に、俊平は彼女が言わんとしていることをやっと理解した。
(地元の友達……“女の子も含めて”、か。つまり、“カヤを呼べ”……ってことだな)
やはり琴子はあの夜起きたことを知っているのだと、俊平は思った。
それでも彼を責めることなく、結婚に向けて前向きに考えてくれている琴子。
そんな彼女の願いを聞き入れないなどということは、今の俊平にはできなかった。
「わかった。こうなったら友達全員呼んで、自慢してやろ。俺の奥さん美人だろ――って」
「……俊平」
「琴子にはどんなドレスが似合うんだろうな」