恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「わかったよ……あとで、直さなきゃな……欠席のマル……」
「私、直して出しておいてあげるから」
「そう? ありがと……つか、眠くなってきた……」
あくびをひとつしてから俊平が眠りこけてしまうと、琴子はベッドから抜け出してダイニングに向かう。
そして早速同窓会のハガキを修正すると、満足げにそれを眺めた。
(俊平に、素敵な出会いがありますように……)
琴子の願いは、ただそれだけだった。
俊平のことは好きだけど、自分に執着している彼の姿はもう見たくない。
久しぶりに再会した同級生と何かが生まれてしまう可能性は低いだろうけど、俊平はもっと自分以外の女性も見るべきだと琴子は思うのだ。
(……どうせ私は、長く生きれないし……)
決して医者から余命宣告を受けているわけではないが、自分の身体のことは自分が一番よくわかる。琴子はそう思っていた。
肉体労働をしているわけでもなく、必死で勉強しているわけでもなく、ただぼんやりと俊平をこの家で待つだけの日々なのに、頻繁に具合が悪くなり、体重も減る一方。
琴子は椅子から立ち上がるとソファに放り投げてあったバッグを開いて、財布の中から名刺を取り出しじっと眺めた。
(やっぱり、遺言は必要よね……)
琴子はそこに書かれた【相良桐人】の文字に重ねるように、親身に相談に乗ってくれた桐人の姿を思い浮かべる。
色の違うパンツとジャケットを合わせたカジュアルなスーツ姿に、明るい色のネクタイがよく似合っていて。
真剣なときの瞳は鋭いのに、笑顔になると一気に親しみやすさが増して、つい警戒心が緩んでしまうような人だった。
(でも……どうしてときどき上の空だったんだろう?)
それに、どことなく琴子のことを知っているような空気感もあった。
……また近いうちに、会いに行ってみよう。
琴子はそう決めると寝室のベッド戻り、俊平の体と少しだけ隙間を空けた場所に、体を丸めて滑り込んだ。