恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
試験は無事に終わったが、相変わらず体調は今ひとつな様子で出勤してくる夏耶。
そんな彼女に、これ以上負担をかけたくない。放っておいてやってほしい。
――と、桐人の中に彼女を気遣う気持ちはもちろんあるが、それはほとんど建前である。
「たぶん、あと三十分もすれば彼女は帰ってきますけど……」
「じゃあ、その頃またここへ来ます」
胸の中にくすぶる彼の本音は――もっと、ごく単純なもの。
(……会わせたくない。沢野を、この男に)
その強い気持ちを認めた桐人は、俊平をまっすぐに見据えて、こんなことを言う。
「……来ても、無駄ですよ?」
俊平は予想外の返事に、呆けた声で「え?」と聞き返す。
「……沢野はウチの大事なお色気要員ですから。ビジネスで寝た相手が、こうして訪ねてきたりした場合、追い返す決まりなんです」
あの夜、夏耶の言い分をまったく聞こうとせずに、俊平がつくりあげた被害妄想。
それを、現実のものにしてやるよ――桐人は意地悪くそう思い、わざと俊平を挑発するような口調で言った。
「……! アンタ、やっぱり知ってたのか……」
声を震わせ、怒りに顔を歪めていく俊平を、桐人は心の中で嘲笑う。
(……そうだよ。全部、聴かせてもらった。アンタがどんな風に、彼女を傷つけたのか――)