面倒くさがりの恋愛
 真夏の昼間に出掛けることはないけれど、夜までこんなにじめじめしていたら嫌になるかも。

 立っているだけでお肌はしっとりするけれど、決して嬉しいしっとり感でもないし、じっとりと言うのが正解。

 ロングスカートじゃない方が良かったかなぁ。

「お待たせ」

 と、かけられた声に目を丸くした。

 今、まったく待っていませんでしたけど。

 目の前にはジャケットとバックを脇に抱えた生嶋さんがいて、ニコニコしている。

「じゃ、どこでご飯食べようか?」

 言っている意味が解りません。

 まったく全然理解不能ですが。

「お願いのお礼。先にしておこうかと思って」

「いいですよ、そんなの。面倒ですから」

「面倒なのが嫌なタイプ?」

「当たり前じゃないですか」

「俺は君の面倒なら、喜んで面倒みたいけど」

 生嶋さんの笑顔を眺め、つくづく思った。

 きっと、この人こそが面倒くさい。
 間違いなく面倒くさいタイプだ。押して押して押しまくるタイプだ。

 溜め息をついたら、その背後の赤いのれんに気がつく。

 開けっ放しのガラス戸に貼られている、季節感を感じる文字の羅列……

「冷やし中華が食べたいです」

「そんなものでいいの?」

「この暑さじゃ、それがいいです」

「いいならいいけど。暑いのは苦手かい?」

「まったくダメです。普段からクーラー無しだとへばります」

「体力ないねぇ」

 笑いながら、生嶋さんとラーメン屋さんに入り、それぞれ食べたいものを注文する。

「ところで、ナツミちゃん。生まれはどこなの?」

 出されたお水を飲んでいたら、唐突に生嶋さんが口を開いた。

「生嶋さんて、ナンパしたことないとか言って、ぐいぐい来ますね」

「……いやぁ。何度でも会えそうなら、小出しに質問も出来るけど、滅多に会ってくれなさそうだし」

 鋭いと言えば鋭い。
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