面倒くさがりの恋愛
 なんだろうと思って顔を上げたら、可笑しそうに笑っている生嶋さんの楽しそうな顔。

「ラーメンに挑む女性は初めて見た」

「ラーメンに挑む?」

「髪の長い女性がラーメンとか、麺類食べる時って、決まって耳に髪をかけたり、押さえたりして食べるもんでしょう?」

 それは何。私が女らしくないとか言う?

「よし! 食べるか! みたいに、箸を割って、髪を結んで食べる人は初めて見たよ」

「それは男の人を意識している女性の仕草です。どーして私が生嶋さんにそんなことしないといけないんですか。意中の人ですらないのに」

「うわ……ハッキリ言うねぇ」

「生嶋さん。ハッキリきっぱり言わないと、押せ押せタイプみたいなので」

「まぁ、ドン引きされていたら燃えるよね」

 燃えなくていいです。

 無言で冷やし中華をすすり、無言で食べ終えると、ハンカチで口許を押さえてから顔を上げた。

「ご馳走さまです」

「お粗末様です。本当に美味しそうに食べるね」

 口を拭いたハンカチをしまい、ニコニコしている生嶋さんに眉をしかめる。

「食べている女を眺めているのはマナーとしてどうかと思いますけど」

「いや。だって、次に惹かれたのが食べっぷりなんだよね」

 ……食べっぷりに惹かれる女ってどうなんだろう。

「君って豪快だけど、綺麗にモノを食べるから。眺めていて楽しかったよ」

「な……眺めていて?」

 生嶋さんが頷いて、それから煙草を取り出した。

「吸ってもいい?」

「あ。気にならないので、どうぞ」

 置いてあった灰皿を勧めて、それからお水を飲んだ。

「どうも」

 生嶋さんは煙草をくわえ、それから銀色のライターをジャケットから取り出し、手で風を避けるようにして火をつける。

 まわりには煙草を吸う人は主任くらいだから気がつかなかったけど、男の人が煙草に火をつける仕草って何だか色っぽく見える。
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