面倒くさがりの恋愛

　どうにもならないのは私生活だよね。

　お昼休みに社食でＡ定食を頼んで、空席を探していると、高嶺さんが手を振っているのが見えた。

「信藤さん。いらっしゃいな。空いているわよ」

「あ。ありがとうございます。同席させて頂きます」

　見ると、高嶺さんの前で主任がカツ丼を食べていて、その隣に生嶋さんが不機嫌そうな顔で座っていた。

「あ。えーと……他の席を探します」

「何言ってんの。とって食ったりしないんだから、いらっしゃいよ」

「いや、別に。高嶺さんにとって食われるとか、そんな事を思っている訳ではないのですが」

「普通は思うよ。あれだけ高嶺に言う人はいないから」

　主任の言葉に首を傾げる。

「別に高嶺さん、後は引かないの知ってますもの。あれだけ嫌味言いながら、主任とご飯してるんですから」

　別に主任や高嶺さんに、さっき暴言はいたから座りたくない訳じゃない。

　単に、この位置関係だと、生嶋さんの目の前に何食わぬ顔をして座らないといけないと言う……そんな苦行が待っているだけなんだけど。

　でも、まぁ……仕方がないか。

「お邪魔します」

　なるべく視線を合わせないように座って、髪を片方の肩にまとめると割り箸を割る。

　うん。今日は綺麗に割れた。

　お味噌汁を飲んで、ほっと息をついたら。

　目の前の生嶋さんと目が合った。

「何か？」

「ああ。いや。別に」

　話しかけられると困るな。

　思いながらも、定食の小鉢に手を伸ばす。

　伸ばして……

「あのぅ。見られますと、落ち着かないのですが……」

　生嶋さんに呟くと、彼は慌てて、主任と高嶺さんは吹き出した。

「そうねぇ。こんな巨人に見られていたら落ち着かないわよねぇ。あんたも人の食べるとこ見て楽しんでないで、さっさと食べちゃいなさいよ」

「解った」

　生嶋さんは呟いて、目の前の定食を食べ始めた。

　ああ。Ｂ定食も美味しそうだったかな。

　まぁ、いいや。

　食べながら、楽しそうにしている高嶺さんを見て首を傾げる。

「主任たちって、仲良しですよね」

「え？　まぁね。この人たちとは同期入社だし」

「そうなんですか。それで、主任と高嶺さんは、いつからお付き合いされているんですか？」

　言った瞬間、主任が水を吹き出し、生嶋さんが喉を詰まらせた。