面倒くさがりの恋愛
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「こちら、よろしいですか?」

 お昼休み。今日はB定食のトレイを持って、生嶋さんに向かって言った。

 生嶋さんは目を丸くして、お箸を持ったまま固まっている。

「……どうぞ」

 言われて、生嶋さんの目の前にトレイを置いた。

 お箸を割って、綺麗に割れたのにニンマリすると、小さい笑い声が聞こえて来た。

「なんですか?」

「いや。君は会社で話かけてこないと思っていた」

「そうですね。以前、妙な噂を流されて、とっても面倒くさい事になった経験がありますし」

 小鉢を手に取ると、生嶋さんの表情が変わった事に気がついた。

「ああ……」

 何かを察して納得している。

「なら、これは目立つんじゃないかな? 高嶺達と集まっている時ならともかく、人事の俺と、経理の君とじゃ」

 トントンと指でテーブルを叩いて、生嶋さんは首を傾げている。

「……いいんです。生嶋さん、結構モテるから」

「え? 俺が? まさかでしょ」

 鼻で笑う生嶋さんを見て、鋭いけれど、鈍いんだと気付いた。

 いつも職場では真顔で、とても真面目に働いている生嶋さん。

 だから話しかける女子社員は少ないけれど、笑った顔が可愛いと、実は密かにギャップ萌えされていることを知らないらしい。

 今まで社内の噂話はスルーしていたけど、気になり出したら止まらない。

 黙ってもくもくと食べていたら、水を飲んでいた生嶋さんが、楽しそうに笑っている。

「気になるなら、ハッキリ言葉にしてくれてもいいのに」

 酔っぱらいになって、生嶋さんにデートに連れていかれた翌日。

 紗理奈から安否確認の連絡がきた。

 まずはごめんなさいと謝られた。

 それから、私が人間不信で、強がりで、言っていることが真逆で、甘えん坊だと喚いた事。

 ……人間不信までは行っていないのですが。

 それらを総合して考えた生嶋さんが『七海ちゃんは、俺のことが好きなの?』と、ぽろっと聞いてきたのがムカついて『そんなことは自分で聞け』と、生嶋さんのお腹に膝げりをいれたらしい。
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