面倒くさがりの恋愛
 ある意味、私の気持ちはバレていたみたいで……

「このままだと、俺と噂になっちゃうだろうけど、いいの?」

 唐揚げを食べながら、ニコニコして、それでも突き詰める気でいる生嶋さんを眺めた。

 そうだなぁ。確かに普段は真顔で怖いけど、笑ったら可愛いと思うし、見ると嬉しいのは確かだよね。

 嬉しいと、感じるって言うことは、つまりそういうことなんだろう。

「その為に座りました……って、言ったら嬉しいですか?」

「嬉しいけど。もっとハッキリ教えてくれたら、もっと嬉しくて抱きしめるかも」

 こんなところで、そんなことをされたら、私は倒れる。

「……では、やめておきます」

「ああ。うそうそ。抱きしめない」

「ずっとですか?」

「……え。うーん」

「冗談です。そもそも、私がここにいる時点で、主任が騒いでくれますよ」

 キョトンとした生嶋さん。

 うん。これは可愛い。

「それはどういう……」

 後ろを指差すと、つられたように生嶋さんは振り返る。

 ちょうどA定食の列の中、主任が目を丸くして固まっていた。

「あ……」

「なんだ、お前ら付き合ってんのか!」

 大音量が響き渡り、列を抜けて主任が近づいてくる。

「主任って、自分はともかく、人の恋バナは面白くてしょうがないタイプみたいですね」

 ハンカチで口許を押さえて拭き取ると、立ち上がろうとして手を捕まれた。

「ちょっと待て、この状態で俺を置いていくつもりか?」

「主任とお友達でしょう? 頑張って下さいよ」

「だから引き留めてるんだろうが。あれが騒いだら……」

 するっと捕まれた手を外し、トレイを持って立ち上がる。

「生嶋さん。良いこと教えて差し上げます」

 ニッコリと微笑み、それから困った表情の生嶋さんを見下ろした。

「女を甘く見たら、かなり痛い目をみますよ?」

「君を好きになった時点で、かなり痛い目をみてるけど」

「好きですよ。そんな生嶋さんも」

 ポカンとした生嶋さんに背を向けて、返却口にトレイを返す。

 背後では主任が騒ぎ、私は私で注目を浴びているけど、まぁ、気にしない。

 ここまで騒ぎにしたんだから、ちゃんと責任は持ちましょう。

 さて、年上の彼氏にはどのように接すればいいのかなぁ。

 明日、紗理奈に聞いてみよう。

 きっと、今日は……

「七海!」

 振り返ると、社食から大勢背後に従えた生嶋さん。

「今日の帰り、飲みに行くぞ!」

 きっと、拉致られる。

 一礼してから、その場を後にした。










FIN
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