面倒くさがりの恋愛
 そういえば紗理奈は先月、彼氏と別れたんだったかな。

 考えていたら、隣の席から低い声がした。

「楠。やめておけ。もう一人が困っている」

 そう言われて見ると、よく知っている顔があった。

 確か……

「そんな事は無いですよ。よければご一緒しましょうよ!」

 勢いよく紗理奈。

「そうですよ、生嶋さん。彼女もこう言ってくれてますし」

 場馴れしているのか、楠くんはニコニコと隣の席からビール片手に移ってきた。

 私は同意してないわよ。していないんだけどさぁ。

 知らないわけじゃないし、邪険にもしにくい。

 思わず溜め息をついて席を移動すると、空いた席を示す。

「どうぞ」

 生嶋さんは眉を上げ、それから苦笑すると私の隣の席に座った。

「どうも」

 苦笑混じりに頭を下げ、生嶋さんは店員さんを呼んで、席を移る事を伝えている。

 それをぼんやりと眺めた。

 生嶋さんは人事課の人で、ちょくちょく経理部にも顔を出すから、よく知っている。

 と言うことは、この楠君も人事課の人間か。

 こんなところで、まさか社内の人に会うとは思わなかったわ。

「……良かったの? 迷惑そうにしていたけれど」

 困ったような表情に、肩を竦めてみせた。

「良いも悪いも、どうすればよかったでしょうか?」

 目の前では、紗理奈と楠くんがニコニコ乾杯している。

 これで断ったら、私は紗理奈に恨まれるわよ。
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