面倒くさがりの恋愛
「若者は逞しいなぁ。まぁ、じゃ、自己紹介でもしようかな」

 自己紹介?

 ポカンとして生嶋さんを眺めると、彼はゆっくりと微笑んだ。

「初めまして。生嶋と言います。あっちは後輩の楠……で、君は?」

 え。なんだろう。少し待って?

 初めましてとか言われた。

 私は、経理部の人間で、実は何度も会っていますが。

 会っているはずなのに……

 気づいていない?

「ナツ……七海です」

「え……いきなり名前呼んでいいなんて、結構積極的だね」

 いや。まさかアレだけど。

 ほら。気づいていないなら気づいていないで、スルーしちゃおうかなぁ……なんて思っちゃったり?

 だってプライベートまで社内の人間と、なんて何だか気まずいと言うかなんと言うか?

 このままいっそ、見知らぬもの同士で通してしまえば、この場限りになりそうだし。

「……まぁ、そんなものなのかな」

 どこか遠くを見るように納得して、生嶋さんはビールを傾けた。

 それから落ちる沈黙。

 ちょっと耐えられない……

「こういう場では、男性が話をするものです」

「ああやって?」

 二人で盛り上がっている紗理奈と楠くんを眺め、お互いに呆れた顔をしてみた。

 うん……まぁ、合コンでもないし、皆でワイワイではないのかも知れないけど、あれは特殊かなぁ。

「すまんね。ナンパは初めてなんだ」

「え?」

 ナンパ初めて? そうなの?

 いや。私もこんな風にいきなり飲む人が増えるのは初めてだけど。

「何だか君らの会話が聞こえて来てしまってね。そうしたら、いきなり楠が話しかけたから……」

 どうも戸惑っているみたい。

 何だかおかしいなぁ。
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