面倒くさがりの恋愛
 いいかな? なんて聞かれて、はいどうぞ、と言う女はいないだろう。

「いえ。あー……っと、ダメです」

「どうして?」

 どうしてって、そりゃ、気づいてないみたいだけど、社内の人は恋愛対象外だからよ。

 そんな面倒な……

「お見合いするよりはいいと思うな。俺は条件もいいよ?」

 しっかり会話も聞かれてたのね。

「給料も良い方だと思うし、恋人もいないし、まだ33だから元気だし」

「元気?」

「あ。下ネタじゃないから」

 真顔で訂正しなくて良い!

 こっちが恥ずかしくなるわ!

「さすがにいきなり下ネタは引かれるでしょう。これから口説こうとしているのに、それは無いよ」

「口説かなくていいですし。飲みで出会った人なんて、軽い調子なんで嫌です」

「あ。そう? 良かった」

 微笑み続けている生嶋さんを見て、口をあんぐりと開けた。

 良かったの? 何がどのように良かったの?

「案外、君も真面目だ。それなら、真面目なお付き合いができそう」

 生嶋さん。酔っぱらいなのかな。

 酔っぱらいの世迷い言かな。

 それならそれで、この場だけ対応すれば良いわけだ。

 事をワザワザ荒立てても仕方がないし、騒ぐほどのことでもないね。

 ないけれど……

 気がつけば、背もたれに生嶋さんの腕。

 見たこともない素敵な笑顔。

 紗理奈に助けを求めても、向こうは向こうで楽しそうにしていた。

 …………困った。
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