面倒くさがりの恋愛
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「信藤さん。去年の人事の現金出納帳の控えを知らない?」

 伝票整理していたら、かかった声に顔を上げる。

「まだ総務管理になっていないと思うのだけれど、どこにも見当たらないの」

 そう言っているのは経理部のお局様。

 そんなに怖い人じゃないんだけれど、注意の仕方が嫌味なので、そう呼ばれて嫌煙されてる高嶺さん。

「去年の……は、確か研修資料に使うって主任がファイルごと持ち出したはずです」

「主任……どうして、あの人は持ち出したら帳簿に記入しないのかしら。しかもどこをほっつき歩いてるの」

 席にいない主任にブツブツ言っている高嶺さん。もはや嫌な予感しかしない。

 主任と高嶺さんの嫌味の応酬を聞く身にもなって頂きたい。

「必要ですか?」

「人事が必要みたい。去年の出納帳なんて、何に使うんだか」

「私が行きましょうか?」

 高嶺さんが行ったら、その場を凍りつかせるだろうし。

「……お願いできるかしら? それから人事の生嶋くんに持っていってくれる?」

 行きたくなーい。

 でも、今さら言えなーい。今さらそんなこと言ったら、私に高嶺さんの雷が落ちる。

「ワカリマシタ」

 にっこりと請け負って部署をでた。

 この時間帯なら、主任はきっと喫煙室だろう。

 予想をつけてから向かうと、案の定、ガラス張りの喫煙室の向こうに主任の姿……と、会いたくないけど会いに行かないといけない生嶋さんの姿。

「主任……」

 喫煙室のドアを開けて声をかけると、同時に振り返る主任と生嶋さん。

「おお。どうした信藤」

「去年の人事の現金出納帳、主任がお持ちでしたよね?」

「ああ。まだ持っているが。何するんだ、そんなもの」

 私は不要なんですが……

「それ頼んだのは俺だな。お前が持ってるの?」

 生嶋さんが煙草を揉み消して片手を上げる。

「お前が必要なのか。なら、少し待ってくれ。取りに行く」

「こっちが取りに行こうか?」

「そうしてくれると楽だな」

 何故か三人で経理部に向かうことになった。
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