ずっと、そばにいたい
ピタッと私の足が止まった。
「…美しい金髪を振り乱し、次々と相手を殴り倒していく謎の新人不良。仲間を作らない…一匹狼。―――あなたのことですよね?」
「…」
黙ったままでいたら、彼女はそれを肯定と受け取ったらしい。
ペラペラと話し出した。
「フードで隠しているため、顔は分かりません。手がかりは、その見事な金髪のみ。高校の特定はできていますが、個人の特定が難しいため見つけるのは不可能。街で見かけるときは、フード付きのパーカーを着用。女だって私は予想してますが、ロン毛の背が低い男って言う意見も無視できません。何しろ顔がわかりませんから」
あぁ嫌だ。
イライラする。
そんな私の心中を知る由もない彼女は、また話し始めた。
「でも、実力はそうとう」
あぁうるさい。
「たった1日でこの街の不良どもを一人残らず殴り倒した。しかも無傷でやってのけたと、言われてます」
コツコツ…。
足音が私のすぐ後ろでとまった。
「男でも女でも、先輩でも後輩でもタメでも、喧嘩売ったやつには一切容赦しないらしいです」
楽しそうに、どんどん弾んでいく声。
「もう一度聞きます。金狼は」
ガンッッ!
彼女の声がピタリと止まった。
私が振り返り際に、彼女の近くの壁を叩いたからだ。
コンクリートの壁に亀裂が走り、破片がハラハラと地面に落ちていった。
「黙れ」
「!!」
私が低く言うと、大きく目を見開いていた彼女がハッとした顔になった。
…やっと黙った。
じゃあ今度は私がしゃべる番ね。
「…何であんたのグループに入らないのか、教えてあげる」
壁から手をはなし、ポケットに突っ込む。
「――嫌いなの。グループとか仲間とか友達とか」
そう、
「他人との関わりって面倒なのよね。私にとってそういうのは、動きにくくなるの。重荷でしかない。鎖にしかならないの。…正直もう疲れた。どうせ本当の私を見たら、すぐに手のひら返すような人達ばかり。そんな人たちと繋がりたくなんかない、もう嫌。だったらやめようと思って。…分かった?私はもう、うんざりなの」
…ちょっと言い過ぎたかな?
「…1つ、言わせて下さい」
少し考えて、美女は私を見た。
身長の差がある…私がチビすぎるだけなんだけどね。
彼女は突如ニヤリと笑った。
「――女の子だったんですね、金狼って」
唖然としてしまった。
私を前にして恐怖をあらわにしない人は、初めてだったから。
「1つだけ、間違ってます」
猫目の瞳がキラッと光った。
さっきよりイキイキしてる?
「面倒とか、重荷になるとか…否定はしません。仲間はあなたにとって、最大の弱味になるでしょう」
でも、
「強味にもなるって、思います」
とっさに否定できなかった。
「…」
「…なので、試しに入ってみませんか?」
そう言って、猫目の美女はフードの中を覗こうとした。
サッとそれをかわす。
「…見せてくれたっていいじゃないですか」
子供のように頬をプクッとさせてふてくされた彼女を見て、思わずフッと笑った。
それを見て、彼女は驚いた表情をした。
「……」
「―――待ってますから」
背を向けようとした瞬間、声をかけられた。
それを無視して歩き続ける。
「……」
「――あなたをグループに入れるのも」
「……」
「諦めませんから」
芯のある声でキッパリ言うのを右から左へと聞き流しながら、私は路地裏を出た。