ずっと、そばにいたい
…なんで私なの?
強い不良なんて、そこらじゅうにゴロゴロいるじゃない。
「…はぁ」
住宅街を抜け、街に出る。
「……」
『強味にもなるって、思います』
あの言葉の意味が、私には全く分からなかった。
…意味わかんない。
強みになんて、なるわけないじゃん。
そうよ、なるはずない。
「…今日はもう、帰ろっかな」
もう少しプラプラしようと思ったけど、止めた。
彼女と話したからか、金髪黒ギャル不良…えーと…あぁそう、シズちゃんの相手をしたからか、なんだか体がダルい。
頭も痛い。
とにかく調子が悪い。
…サッサ帰って休もう。
「……あ、スミマセン」
歩いていたら、誰かに肩が当たった。
とっさに謝ったら―――
「ぁあん!?」
…クソ、まためんどくさそうなやつが…。
何て日なの今日は…ついてない。
「テメェ、俺が誰かわかってて俺にぶつかったのか!?ああ!?」
うるさいな、無駄に声がでかい。
…でも、さっきぶつかって思ったけど、コイツかなり体つきが良さそうだった。
細いのにすごいな。
声はでかいけど。
「――おいおい、女子相手にキレんなよ。レン」
「ゴメンねぇ~怖かったでしょ?レンは無駄に声でかいからねぇ。お詫びにこれから食事でも」
「…アオイ、あまりナンパは良くないぞ」
「そんなことどうでもいいからさ、早くルナ達と合流しようよ」
…またゾロゾロと…。
それぞれタイプや髪の色の違う男が私を囲み、なにやら言い合いを始めた。
なんか…凄く面倒くさそうな集団ね。
こういうのとは、関わらないが一番。
「…さっきは本当にすみませんでした。私は怖がっていないのでお詫びは結構です。どうぞ、早くお仲間さんと合流して下さい。では、失礼します」
早口でそう言うと、スッと集団から抜けた。
「あ、ちょっと」
呼び止める声が聞こえたけど、無視無視。
「――おい」
「!!?」
突如、手首を掴まれた。
振り向く。
フードから出ていた金髪が、一瞬視界を制限した。
「!?…」
手をすぐに振りほどけなかった。
…銀、髪…。
「待てよ」
動けなかった。
ウソ…でしょ?
でも、いや…う~ん。
…ああ!もう!
顔見とけばよかった!
「…なん、ですか」
口調が少し固くなってしまった。
銀髪の不良なんて、この街には何十っている。
だから銀髪だからって、この人って訳じゃない…のに。
「そんな警戒すんなって」
フッと笑った。
…凄く、かっこいいと言うか…キレイだった。
戸惑ってしまう。
「け、警戒なんてしてません!」
「してるだろ」
「…そんなこといいですからっ、放してください!」
焦ってしまう。
あぁ、もう!こんなの私じゃない!
「だから待てって」
「待てませんから!放してください!」
戸惑うのはきっと、この人の顔面偏差値が高いから…、きっとそうだ。
「話聞けって」
ウッ…。
低い声で言われ、つい黙ってしまう。
「…フッ、やっと話聞く気になったか」
「……早くしてください」
「お前がもっと早く、俺の言う通りに待てば早く終わったんだけどな」
うぅ、確かにそうだけど…。
…だめだ、全然冷静になれない。
その時―――
「みんなぁ~、お待たせぇ」
「!!?」
「あ、ルナだ」
…この声、もしかして。
「あれ、ルナ一人ってことは…」
「『金狼』の勧誘には失敗しちゃいました~」
「まぁしかたないだろう」
銀髪の不良の後ろの五人の、またその後ろに目を向けた。
間違いない、あの猫目の美女だ。
なんでここに!!?
いやそれより、早く気づかれる前に…!
「リーダー、失敗しちゃ……て、あれ?その女の子…」
き、気づかれた!??
「はは、放してください!!警察呼びますよ!?」
「「「「「「「警察!!!??」」」」」」」
七人の声がハモった。
あぁハモんないでよ!恥ずかしくなる!
「なめてんのかこの女…!」
「ちょ、落ち着こうか」
「警察はヤバイな…」
「呼ばれたら困る」
「マジ迷惑なんだけど、警察とか」
「ちょっと待ってみんな、この子――」
「いいからっ、放してください!」
振りほどこうとしたら、手は掴んだまま、はなれない。
銀髪の彼を見たら、
「イヤだね」
って笑った。
楽しんでる場合じゃないの!
猫目の美女がこっちへ来た。
本気で焦った。
マジでヤバイ!
「はなせって言ってんでしょうがあっ!!!」
ダンッッ!
「ウッ!」
「リーダー!」
彼女の声に、我にかえると同時にまたパニックになった。
イヤそれ全然我にかえってないから!
ていうか、今の私ってなんなの!?
パニックになって人をこんなとこで投げるとか!
「ス、スミマセンデシタア!!」
精一杯全力でそう言って、私は彼らに背を向けてその場を走り去った。