クローバー♧ハート - 愛する者のために -

突然吹いた風に、悠の小さな声が掻き消され

私は乱れた髪を抑えながら、もう一度聞きなおした。



「だから、僕にも分からないんだよ!」



立ち止まり、小さな拳を握りしめて苛立ち叫ぶ。

俯きその拳は小刻みに震えていて、何かに耐えているようにも見えた。



「ッ――ごめん、ごめんね悠……」



思わず駆け寄り、小さなその体を後ろから抱きしめる。

あぁ、混乱させるほど悠を追い詰めたのは私だ。

悠は周りの子より大人びていても、五歳の子供。

六歳になったばかりの息子に「どうしたいのか」なんて

性急に決断を委ねるのは、筋違いだったのかもしれない。

でも……それでも、彼の気持ちを最優先に考えたい。



「悠、お願いがあるの。私と一緒に、弁護士さんに会ってくれない?」



悠を抱きしめたまま、ある決意と共に聞いた。

例え私を選ばなくても、後悔だけはして欲しくない。

< 142 / 303 >

この作品をシェア

pagetop