クローバー♧ハート - 愛する者のために -
「どうして、あの人は私を見てくれないの?……私だって、あの人を好きになろうと努力した。でも!」
「由依っ?!」
彼女の声に重なり、聞こえる裕貴の声。
きっと護さんが彼に知らせてくれたのかもしれない。
ココまで走って来たのか、額には汗を滲ませて息を切らしていた。
けれど由依さんには裕貴の声が届いていないようで、自分の気持ちを吐露し続けている。
「裕貴は毎晩、寝言であなたの名前を呼ぶの。“陽香、行かないで”って……そんな人と、どうやって夫婦を続けろって言うの?他の女に、心がある人と――」
陽香、行かないで……か。
確かに、その言葉だけじゃ不倫してるかのように聞こえるかもしれないな。
裕貴は裕貴で、私への後ろめたい思いから寝ているときに懺悔していたのかも。
だけど本当のところは、本人しか知らない。
両手で顔を覆い、隣で泣き崩れる由依さんを見て哀れみすら覚えた。
……彼女も、ある意味被害者なのかもしれない。
由依さんだって、裕貴と恋愛して結婚したわけじゃない。
両親が薦めた人と何となく結婚をし、幸せを夢見ていた。
なのに、その人は他の女の名前を夜な夜な呼んで懺悔する。
どんなに悔しくて、辛い毎日だっただろう。