クローバー♧ハート - 愛する者のために -

そう。誰でも“死”は怖い。

だからこそ、私たちが出来ることがあるのなら最善を尽くしたい。

それが、医者や看護師としての責任だと思うから。



「……そう、だな」



柔らかな笑みを浮かべて、私を見上げた。

整った顔だけに笑顔になると、みんなが素敵だと言う意味が分かる気がした。

そんな日があってから時々話す機会が増えて、半年が過ぎた頃に私たちは自然と付き合い始めた。


けれど裕貴の家は、曽祖父から続く医者の家系。そして一人息子であり、長男だ。

だから彼の付き合う人というのは、将来は福山病院の院長の妻になる。

裕貴は幼い頃から将来の妻は、それなりの身分の娘でなければいけないと言われていたらしい。

なのに、彼は平凡な私を選んでくれた。

いつか両親にも私のことを話して説得するからと。


それに彼は、この櫻井総合病院でもかなりの人気者。

抜け駆けしたなんて知られようものなら、何をされるか分からない。

だから、私たちの関係は二人だけのヒミツ。

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