クローバー♧ハート - 愛する者のために -

誰にもバレないように、病院内では医者と看護師。

でも外に出れば、恋人として過ごしてきた。

もちろん周りの目を気にしつつだから、満足にデートが出来る訳でもない。

けれどそれでも幸せだった。

どちらかの部屋で何気ない話をしたり、私の手料理を食べてくれたり――。

彼と二人でいられる時間が、何物にもかけがえのない大切なものだった。


そうして、付き合い始めて一年が過ぎた頃。

私のお腹の中に、小さな命が宿ったことを知った。

その事を彼に話そうとした夜、思いもよらない出来事が起きた。

家で裕貴の好きなロールキャベツを作っていると、スマホが彼専用の着信音を鳴らし始めた。



『陽香?悪い、今日行けなくなった。親父に俺たちの事がバレたらしいんだ』



耳に当てると、彼には珍しく少し焦ったような声。

え……まだ先の事だと思っていたから、心の準備が出来ていない。

それに彼の話では、かなり厳しい人だと聞いているから裕貴も怒られるだろう。

私も一緒に行った方が良いのかな。

言い知れない不安が押し寄せる。

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