クローバー♧ハート - 愛する者のために -
裕貴の家が、相手に求めるのは肩書と権力だと言うことは知ってる。
だけど私は彼の気持ちを、言葉を信じたかった。
なのに、こんな形で裏切るなんて――。
彼も家族同様、気持ちより肩書を選んだと言うことなの?
お義父様に言われて、仕方なく表向き婚約したと言ってるとか?
そんな自分に都合のいい考えと、裏切られたという思いが交互に押し寄せる。
その場で泣きそうになる気持ちを抑え、下腹部に手を当てながら奥歯を噛みしめた。
許せないと思いつつも、心のどこかで裕貴を信じたいという相反する気持ちが鬩ぎ合う。
けれどその淡い期待も、すぐに地獄に落とされることとなる。
彼本人からではなく、違う人物から――。
噂が立ち始めて一週間が過ぎた頃
彼の婚約が正式に決まり、病院内でも発表された。
その間、院内で彼との接触はなく目も合わせてくれない。
もちろん裕貴からの連絡は無い。
その日の夕方、私は院長室へ行くようにと婦長に言われ廊下を歩く。
私たち看護師が院長室へ呼ばれることなんて、滅多にない。
何か怒られる事でもしただろうかと、ビクビクしながら院長室の前に立った。