クローバー♧ハート - 愛する者のために -

裕貴の家が、相手に求めるのは肩書と権力だと言うことは知ってる。

だけど私は彼の気持ちを、言葉を信じたかった。

なのに、こんな形で裏切るなんて――。


彼も家族同様、気持ちより肩書を選んだと言うことなの?

お義父様に言われて、仕方なく表向き婚約したと言ってるとか?

そんな自分に都合のいい考えと、裏切られたという思いが交互に押し寄せる。

その場で泣きそうになる気持ちを抑え、下腹部に手を当てながら奥歯を噛みしめた。

許せないと思いつつも、心のどこかで裕貴を信じたいという相反する気持ちが鬩ぎ合う。


けれどその淡い期待も、すぐに地獄に落とされることとなる。

彼本人からではなく、違う人物から――。


噂が立ち始めて一週間が過ぎた頃

彼の婚約が正式に決まり、病院内でも発表された。

その間、院内で彼との接触はなく目も合わせてくれない。

もちろん裕貴からの連絡は無い。


その日の夕方、私は院長室へ行くようにと婦長に言われ廊下を歩く。

私たち看護師が院長室へ呼ばれることなんて、滅多にない。

何か怒られる事でもしただろうかと、ビクビクしながら院長室の前に立った。

< 63 / 303 >

この作品をシェア

pagetop