クローバー♧ハート - 愛する者のために -
気持ちを落ち着けるために、胸に手を置いて深呼吸をしてドアをノック。
「平野です」
「……入りなさい」
少しくぐもった男性の声が聞え、もう一度深呼吸をしてから部屋の中へ。
部屋の中央には、重厚な黒革のソファが置かれていて、その奥に院長のデスクがある。
てっきり院長がいるものと思っていた部屋には、思いもよらない人物がソファに座ってた。
「初めまして、と言うべきかな。平野陽香さん」
誰、この人。まさか、不法侵入者?
身なりはきちんとして笑顔を浮かべているけれど、威圧感半端ないんですけど。
でも、どこかで会ったことがあるような……何処でだろう。
「あの……院長は何処ですか?私、院長に呼ばれて――」
「私は、福山孝宏。裕貴の父と言えば分かるかな」
彼はソファから立ち上がり私を見据え、品のいい銀縁眼鏡をクイッと中指で持ち上げた。