クローバー♧ハート - 愛する者のために -
初めて目にする、裕貴のお父さん。
突然の事に頭が真っ白になり、何を言えばいいのか分からない。
「まぁ、座りなさい」
立ち尽くした私を見かねたのか、そう言って彼はソファに座りなおし
タバコに火をつけた。
裕貴と同じ銘柄のタバコの紫煙が院長室に漂う。
慣れたタバコの香りのはずなのに、今の私には煙くて仕方がない。
思わず顔を背けてしまった。
「おや、苦手だったかね。すまない……早く掛けなさい」
私の様子に気が付き、すぐさま灰皿に押し付け火を消してくれる。
そして再度、ソファの向かい側に座るように促した。
立ったままというのも失礼だと思い直し、ソファに浅く腰掛け彼と向かい合う。
「あの、ご用件は――」
「君も知っているね。裕貴の婚約のこと」