クローバー♧ハート - 愛する者のために -
「お話が以上なら、私はこれで失礼します」
立ち上がり彼に背を向けると「君ッ!」と少し怒りを含んだ低い声が届く。
けれど、このまま彼の言いなりになるつもりはない。
「ご安心ください。このことは誰にも言いません。あなたたち親子にも、今後一切関わりませんから」
ドアの前で足を止め振り返ると、彼の目を逸らすことなく見つめ返す。
彼は一瞬目を見開き、驚いたような表情を浮かべたけれど
すぐにそれは消え、呆れたように小さく溜息をついた。
「そうか。ただし、子供は堕ろしてもらう。どこの馬の骨ともわからん奴が、福山家の血を引く子を産むのは許せん」
「ッ――失礼します」
それだけ言うと、振り返ることなく足早に院長室から出る。
心無い彼の言葉に、手が出そうになった。
必死に右手を抑え込んで、近くのトイレに駆け込む。
仮にも医者である人が言うべき言葉じゃない。
悔しい、虚しい、悲しい……様々な感情が渦巻いて、胸を押し潰す。