思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
ガタッ
教室の扉の方から、物音がした。
「蒼空?」
そう口にした。
けれど、教室に入ってきたのは
「あはは……ごめんね、蒼空じゃなくて」
「夕……」
「蒼空が優那ちゃんを探してきてって僕に言ってきてさ。自分で行けばいいのにね」
「……」
ゆっくりと、私の隣に座りこんだ。
「で、優那ちゃんどうしたの。さっきのことで恥ずかしくなっちゃった……?」
「あれは、誤解で……。恥ずかしかったっていうのもあるけど、何だか怖くて」
「怖い?」
「皆、ひそひそとしてたでしょ?それがどうしようもなく怖くて。何か起こるんじゃないかって。むしろ、ここにきて、特別寮に入って、皆と一緒に居て、今までなにも起こらなかった方がおかしいんだよ」
「僕達がちゃんと守ってるから。……ねえ、優那ちゃんは今までそういう経験があるの?その……いじめとか」
「私が記憶をなくしてから、学校に復帰したときにね?皆私に嘘を教えたの。ありもしないことを私に吹き込んだ」
病室に置いてあった、友達からのお見舞い品がまるで嘘のようだった。
手紙やポストカードに書かれた優しい言葉は、建前なんだと知らせるように。
「皆嘘をついて、私に記憶が無いことを馬鹿にして、時には利用した。例えば、人間関係を偽ったり」
「なんでそんな……」
夕が、つらそうな顔をする。
「でもね、私はそれが全部嘘だって知ってたから、大して何も思わなかった。だって皆私に嘘を言うと、面白そうにクスクス笑うんだもん」
「あるときは、私と先生はデキていた、なんて言われたことがあって、先生までグルになって襲われそうになったこともある」
勿論未遂だ。
「そんなっ……酷いよ。記憶がないことを利用するなんて………」
「でも、襲われそうにはなったけど、間一髪で他の先生が助けてくれたし、その私を襲おうとした先生は、重い処分を受けたよ。実質、私にはなんの被害も無くて、ただ独り身だったって話なんだよ」
嘘を言われようと、それで襲われそうになろうと、なんだかんだ自分に被害が加わることはなくて、決して平穏とは言えないけど、それなりに過ごしていた。
中学に上がれば、そういうことも減ったし。
皆、興味が薄れたんだろう。