思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中








「ちょっと、行ってきます」





お昼を食べ終え一息すると、トイレの方向を指しながら私は席から立ち上がった。




校舎内に入り、近場のトイレを目指した。




タイミング良く、他の人は誰も居らず、ほっと一息つく。





あまり、鉢合わせしない方が良い気がする。





と言っても、テントに行ってしまえば、クラスの女子とは鉢合わせしてしまうのだけど。



そう思いつつ、個室に入った。




そして出ようとしたその時だった。






「はぁー、疲れたっ」







「ね~」






「でもまぁ、アタシは夕くんの学ラン姿見れたし、満足だけどね~」







「確かに、あたしも蒼空くんの見れて超最高。あんな蒼空くん、滅多に見れないもん」








「私は、真くん推しだわー」







2人……いや3人、この壁の向こうに居る。








「でもさ、一つ気にくわない事あったよね」








「あぁ、あれね。………借り物競争のときの」







借り物競争と言えば………あぁ、あのことだ。







「あれが本当かどうか知らないけど、一緒の寮に住んでるからって、調子乗ってるんじゃない?」



調子には乗ってません。




「そもそも、なんであの子だけ特別寮なわけ?」




あの寮に入ることを決めたのは私ではないし。





「よりにもよって、本命の蒼空くんが好きなんて。本当、ありえない。他の女の子達ならまだしも、あの子はねぇ……」







私、嫌われてる……?







これじゃあ、出るに出れない。







「本当、あの子が特別寮に居る意味がわからない。普通なら女子寮に来るはずでしょ?」







「でも、決めたのは理事長らしいし、今更どうにもならないと思うけどね~」







早く、行ってくれないかな。







でも、もうしばらくは居そうだし…………。








仕方ない。







意を決してドアを開けると、3人が一斉にこちらを向き、目を見開いた。






「あのっ……さっきのは誤解なんで、気にしないでください」







「は?」






どうやら、先輩のようだ。






「あんた何?盗み聞き?」





凄い剣幕だ。





「ごめんなさい」






「ね、ねぇ、誤解って、どういうこと?」






蒼空のファンであろう、栗色の髪をした先輩が、私に言い寄る。







「借り物競争の時、アナウンスの人が言っていたことは嘘で」







「じゃあ、あんたは蒼空くんの事好きじゃないってこと?何とも思ってない?」







「___________はい。勿論、他の3人のことも、そういう目では見てませんから」







あ、あれ。








おかしい。








自分でそう言っておいて、胸がチクリと痛い。








「そ、なら良かった」






一歩身を引き、強張った表情が和らぎ笑顔になった。






一方私は、まだ冷や汗が止まらない。






早く立ち去りたいのに……






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