思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
Secret5
いろいろあったものの、無事合宿(仮)は終わり、再び寮での生活がやってきた。
けれど学校もなければ部活もなく、特にすることがない私達は、暇を持て余していた。
そんな日々が続き、あっという間に世間でいう”お盆”と言う時期に突入してしまった。
「あつー」
ソファに項垂れ、アイスを片手にTシャツの襟をぱたぱたとさせる夕。
自分の部屋からリビングに行くと、皆暑そうにしていた。
どうやら冷房が止まってしまったみたいだ。
事実、私の部屋の冷房も止まってしまっていたから、こうしてリビングに来てみたのだ。
まさかリビングまでとは思わなかったけど。
「優那ちゃんの部屋も使えないみたいだね、エアコン。ということは、全部屋エアコンが使えないみたいだね。そのお陰で、見ての通り皆リビングに集まって来ちゃって暑いんだよね」
透が、額に汗を滴らせながらそう言った。
透はキッチン横の椅子に腰かけ、真は冷蔵庫から冷えたアイスを取り出し、蒼空はフローリング部分の床に死体の如く転がっている。
「透、いつになったらエアコン直るんだよ」
「うーん、さっき連絡したときは、直ぐに直してくれるって言ってたんだけど_____」
コンコンコン
不意に玄関の扉を叩く音が聞こえた。
「あ、私が出る」
直ぐに玄関へ行くと、大きな扉を開けた。
「あら、優那ちゃんじゃない」
「え?」
そこには、きちっとした格好の女の人と、後ろにつなぎを着た作業員が立っていた。
どうして、私の名前を知っているのか。
私はこの人に見覚えはない……と思う。
誰だろう。
見たところ、うちの母と同い年くらいだろうか。
「ああ、言ってなかったわね。私は理事長の不二咲茉莉子よ。貴方の母親とは古い友人なの」
あいにく、理事長のことを私は全くといっていいほど知らない。
名前だって今日初めて知った。
「そうですか」
そういうこのなら、私の名前を知っていてもおかしくはないか。
「あら、随分と薄い反応ね。まあ、話したいことは山ほどあるけど、今はこっちが先ね」
「?」
「エアコンが壊れたって笹野くんから連絡があったから、業者さんを呼んだの。多分、室外機が原因だと思うから、すぐに直してもらうわね」
「ありがとうございます」
「それだけよ。本当はこんなかたちでの対面じゃなくて、もっとちゃんとした場で話がしたかったわね。あ、そうだ、今度理事長室に遊びに来てちょうだいよ」
遊びにとは、随分軽い。
理事長室なんて、そうそう行けるところじゃないはずなのに。
寧ろ、あまり行きたくない場所かもしれない。
「あの」
「優那ちゃん、この寮はどう?」
急に改まり、理事長はそう尋ねる。
「……楽しいです。でも……」
「でも?……何か心に引っ掛かる、とか?」
鋭い目つきで、私の思っていたことを言い当てる。
「どうして」
「さあ、どうしてでしょうね。ただ一つ言えることは____いらない過去なんてない。ってことよ。過去があってこその今じゃない。
たとえ思い出したくなくても、その壁を乗り越えなくちゃ。その義務が貴方にはあるのよ」
思い出したくないんじゃない。
思い出せないの。
「優那、何かあっ_____理事長?」
「あら、蒼空じゃない」
蒼空のことは下の名前で呼ぶんだ。
「理事長がなんでここに?」
「業者の方を案内しに、ね」
「どうせ、それだけじゃないんでしょ?」
「あ、バレちゃった?」
無邪気に笑うその姿は、まるで子供みたいだ。
立派な大人なのにね。