思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
「ゆ、優那ちゃん!?」
涙を流す私を見て、目の前に居る大きな透は慌てる。
「ぅ……」
涙は止まらないなくて、どんどん溢れてくる。
「ああ、もう!」
そんな私を見て、透はギュッと私を抱きしめた。
すっぽりと透の胸に収まる。
あの小さな透ではなく、大きな透。
「優那ちゃん、思い出したんだよね…?」
「うん」
「俺あの日、優那ちゃんが急に居なくなって、本当にびっくりしたし、悲しかった。手紙、ちゃんと読んだよ。短い文だったけど、凄く嬉しかった」
「うん」
透の話に、私は頷いて答えた。
「たった3日だったけど、あの頃の俺は社長の息子ってことで肩身が狭くて、それと同時に行動範囲も決められて、息苦しくて仕方がなかったんだ」
「うん」
「だけど、そんなときに優那ちゃんが現れた。独りでいる優那ちゃんが気になって、つい声をかけちゃったんだよね」
「うん」
「お屋敷内でたくさん遊んで、楽しかったな。ねぇ、気づいてた?」
「なに、を?」
「俺、優那ちゃんのことが好きだったんだ。一目惚れ……なんだよね」
「え?」
透が、私のこと好き………だったんだ。
「居なくなってからもずっとね」
ずっと。
その言葉が引っかかった。
「ねぇ、それって?」
「今も好きだ」
「今も…?どうして。ずっと会ってなかった。それに、今の私は昔とは違う。それでも?」
「最初君の名前を理事長から聞いたとき、まさかとは思ったよ。確かに幼い頃聞いた名前だった。でも、もうずっと会ってないし、どこに住んでるかも分からない。同姓同名の別人だと思ってた」
「でも君が寮に来て、一瞬思ったよ。やっぱりこの子なんじゃないかって。
でも、君は俺を見ても何も反応しない。だから勘違いなのかなって。
だからずっと黙ってた」
「そっか……」
「いつの日か君が"家族以外の全てを忘れてしまったとしたら、思い出したいと思う?"って聞いてきた時は一瞬疑ったけど、それが小説の話だって言うものだから、深くは追求しなかったんだ」
「小説の話だっていうのは嘘だけど」
「知ってた。優那ちゃんって嘘が下手?あそこまで言われたらわかっちゃうよ」
「バレバレだった……?」
「利き手次第かな」
「……」
「細かいことはともかく、俺は優那ちゃんが思い出してくれて嬉しい。そして、君がここに来ての数ヶ月間…………つまり、昔の君も今の君も含めて好きなんだ」
そう言って、透は私の肩に手を添え、胸から離す。
そして頬にキスをした。
「っ……!?」
「俺じゃ、ダメかな」
優しい雰囲気とは違う強い眼差し、男の人なんだと理解させる肩に手の大きさと力の強さ。
「えと、その……」
透がダメなんじゃない。
だけど、私は”はい”とは言えない。
「あ、ごめんね。優那ちゃんだって、混乱してるのに」
ぱっと、手が離された。
「だい、じょうぶ」
一度気に、いろんなことがあり過ぎて少し頭が痛い。
「返事は今じゃなくていいから。今聞いても、いい返事は帰ってきそうにないしね」
「ん、わかった」
頭を撫でる大きな手に、心地よさを感じる。
記憶を思い出すには何かきっかけが必要。
今回は、そのきっかけが透だった。
いや、どうだろう。
「うさぎ_____?」
「そういえば、あのときいつも優那ちゃんの隣に男の子が居たんだよね。一体、誰だったんだろう」