思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
透の呟きに私は反応した。
「私もその子が誰なのかわからない。こう……靄がかかったような感じで」
「俺との思い出は思い出せても、肝心なところはまだわからないってことか……」
「親戚…とかかな」
旅行に一緒にいるっていうくらいなのだから、親戚か何かに違いない。
「どうだろうね。って、もうこんな時間だ。早くお昼食べないと昼休み終わっちゃうね。とりあえず戻ろうか。話の続きはまた今度ってことで」
「う、うん」
服の袖で涙を拭うと、透の手を取った。
結局、その子が誰なのかは思い出すことは出来なかった。
それにしても私、透に告白………された?
あれは告白なんだよね?
でも、返事はいいって言ってたし。
まあ、透がいいっていうなら、いいのかな。
「蒼空、好きって何?」
ソファに座る蒼空に尋ねる。
まともな答えが返ってくるか分からないけど。
「え、好き?」
目を見開く蒼空。
「私、好きだよ。蒼空も、夕も、真も、透も」
「……うん、俺も好き。ねえ、優那の言う好きって何?恋とか、そういう好き?好きな人でも出来たの?」
「恋、なのかな」
透が言う好きって、そういうこと……なんだよね?
多分。
一目惚れって言ってたし。
「ふーん。それって誰?」
え、誰……?
「ひ、秘密」
言わない方がいいよね?
「教えられない人なんだ。例えば、この寮の誰かとか?」
「っ……!」
「へぇ、そうなんだ。昼休み透と何話してたの?そのときから何か変、というか変わったよね」
なんだか少しだけ、蒼空の言い方が針みたいに鋭い。
「思い出したの、透と幼い頃会っていたってこと」
「それで?」
「それで……?」
「思い出してどうだったのかってこと」
なんでそんなにトゲトゲしてるの?
「思い出せて嬉しかった。ずっと、思い出せないままだったから。少しだけど、心が軽くなった感じがしたの」
胸に突っかかるものはまだいくつもあるけど、それでも重りが一つ砕けたような軽さを感じていた。
「思い出したのはそれだけ?」
何故か蒼空は私の記憶のことになると、神妙な面持ちで話す。
「男の子がもう一人、私の隣に居た」
「……」
今度は何も言わない。
「蒼空は、何か知ってるの?」
「俺は……」
言葉を渋らせる。
その反応こそが、肯定だった。
「どうして教えてくれないの?」
何かを隠している。
「ごめん」
たった一言謝り、その場から立ち去ってしまった。
知ってるなら、どうして教えてくれないの?