羽ばたけなくて
私の目の前に大きく広げられている新聞紙。

その新聞紙越しに香ばしいコーヒーの香りが漂う。

新聞紙が微かに揺れる時、

きっとお父さんが口に

コーヒーを運んでいる時なんだろう。

「もう少ししたら、出るからな。」

新聞紙の向こうから静かに声が響く。

「そっか。気を付けてね、お父さん。」

私がそっと声をかけると、

目の前の新聞紙が微かに動いた。

やっぱり私とヨウのこと、心配なんだよね。

そう思っていると、

今度はお母さんの声が飛んできた。

「あなた、出掛ける時間ですよ。

 羽衣、ヨウ。気を付けて過ごしてね。

 日帰りだから今日戻るけど、

 きっと夜遅くなっちゃうと思うから。」

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