羽ばたけなくて
「ちょっと羽衣。人の話、訊いてんの?」

私の隣で頬をぷくっと膨らませ、

ふんわりカール掛かったロングヘアーの女の子が

私に話しかけてきた。

「あ、ごめん美園。気が飛んでた。」

「やっぱり。

 羽衣ってば気付くといっつも上の空だから困っちゃう。」

「ごめんってば、美園。」

その女の子、赤羽根美園(あかばね みその)は、

私の平謝りに「まったく」と言いながらも

表情はとても柔らかい。

美園はこの地域で一番の豪邸といわれる屋敷の一人娘。

いわゆる、お嬢様。

でも、普段の美園からはそれを全く感じさせなかった。

私と同じ……いや、私よりもサバサバした、

一緒にいて居心地のいい人だ。

「羽衣はいつも、気が飛んでんもんな。

 遠い別世界に。」

「もうそれはいいじゃん、大志。」

私の正面にいるがっしりとした

体格の男の子らしい男の子、

矢野大志(やの たいし)が私をからかう。

大志はいっつも私をいじっては楽しんでる。

こんな風に。

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