羽ばたけなくて
1階へと駆け下り、リビングのドアを開ける。

そこには美園の姿はなく、

ヨウがソファに腰かけてテレビを観ていた。

「ヨウ。美園、どこに行ったか知らない?」

私の問いかけにヨウがふっと振り向き微笑みながら、

「お姉ちゃんね、僕とさようならしてくれたよ。」

とこたえた。

ヨウに“ありがとう”の意味を込めて片手を挙げると、

私は大急ぎで玄関を出た。

美園のことだからきっと家には真っ直ぐ帰らないはずだ。

だとしたら、どこに……?

美園が行きそうな場所を考えながら懸命に走る。

すると、私の家からほど近い公園の日陰のベンチに、

ちょこんと座っている美園の姿が目に入った。

私は呼吸を整えながらそうっと美園へと近付く。

「美園。」

優しく呼びかけると、

下を向いていた美園と目が合った。

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