羽ばたけなくて
しばらく無言のまま私たちは歩き続ける。

ただ、

雅也は私の歩くスピードに合わせてくれているようで、

私が必死になって歩くことはなかった。

「今日の羽衣、……なんか雰囲気違うんだけど。」

ふと雅也がぽつりと呟く。

私は思わず「え」と訊きかえしてしまった。

別に聞こえなかったわけではないのに、

ただ恥ずかしさを隠すように無意識にそう口を動かしていた。

すると雅也は少し息を吐いてから、

「なんか、可愛い。」

とさっきよりももっと小さな声で言った。

可愛い―――。

雅也の口からそんなこと言われるなんて思っていなかった私の心は、

今までにないほど大きく鼓動が波打ち始めた。

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