羽ばたけなくて
お互いの手が触れるか触れないかの微妙な距離。

きっと雅也のことだから

手を握ってくれることはないだろうけれど、

もしかしたら、

とほんの僅かな期待が私の胸の中で膨らむ。

そして自然と鼓動が早まっていく。

「羽衣。」

雅也に呼びかけられ、

私の心臓がドクンと大きく音を立てる。

「な、なに?」

「どっかお茶できる場所、ないか。

外で話すのもあれだしさ。」

そう言われて私は1軒のお店を思い浮かべる。

この地域に昔からある、

私のお気に入りの小さな喫茶店だ。

「すぐ近くにあるよ。こっちの方。」

私は左の方角を指差しながら、

その喫茶店へと向かい始めた。

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