羽ばたけなくて
雅也は言葉こそなかったものの、

美園に向かって軽く右手をあげた。

これが雅也流の挨拶なのだ。

いつだって雅也はこうして挨拶を交わす。

そっけないかもしれないけれど、

その姿もまた、私はたまらなく好きだ。

美園は私たちと別れ、早足で去っていった。

雅也と2人で歩く帰り道。

これ自体、それほど珍しいことではない。

私の家と雅也の家の方向が一緒だから。

だからといって、

必ず一緒に帰らなくてはいけないわけではない。

雅也が先をスタスタと歩いていってしまっても

何も問題はない。

でも、雅也はいつも私に歩調を合わせてくれ、

先に帰ろうとは決してしない。

私にとってはとても嬉しい幸せな時間。

一緒の時間を過ごしてくれる雅也にも

私は心の中で感謝していた。

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