羽ばたけなくて
美園の目には涙がにじみ、

今にも溢れ出しそうなほどになっていた。

小刻みに震える美園の身体を、

大志は優しくそっと撫でる。

その2人の様子を見ながら、新堂さんはふっと鼻で笑い、

「美園お嬢様、貴女には婚約者がいるんだ。

 そんなワケのわからないガキと

 一緒になるなんて馬鹿なこと、

 二度と言わないで頂きたい。」

と、今まで見せたことのない顔を見せた。

その顔は悪魔のように恐ろしく、

あの紳士的な姿はかけらもない。

「……ざけんな……」

それまで静かに訊いていた大志の口が僅かに動いた。

その瞬間、

優しく包み込んでいた美園をしっかりと抱き寄せ、

「ふざけんな!」

新堂さんを鋭く見つめながら大声で叫んだ。

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