羽ばたけなくて
そんな状態がどれくらい経っただろう。

次に口を開いたのは、大志でも新堂さんでもなかった。

「大志と、一緒にいさせて。

 お願い、新堂さん。私の気持ち、わかって……」

今にも崩れ落ちてしまいそうなほど弱々しい声で、

美園はそう新堂さんへ訴えた。

その瞳からすうっと一筋の涙が零れ落ちる。

その雫は大志への強い想いが溢れているようで、

私は思わず息をのんだ。

そんな美園の姿に、

新堂さんの険しい表情がブロックのように落ちていく。

「美園お嬢様……」

新堂さんは小さく呟くと、

突然、大志に向かって頭を深く下げた。

「え……」

思ってもいなかった新堂さんの行動に、

大志も戸惑いを隠せず言葉を失っている。

美園もまた、

大志と同じく黙って新堂さんを見つめている。

頭を一向に上げようとしない新堂さんに大志はたまらず、

「ちょ、ちょっと新堂さん。」

と、慌てて呼びかけた。

しかし、それでも新堂さんは頭を上げようとはしない。

「すみませんでした。」

その代わりに聞こえた新堂さんの静かな声が、

私たちをそうっと包み込んだ。

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