羽ばたけなくて
美園の言葉に、私はふと雅也の方を見る。

私も、美園の言う通り、

好きになった人とずっと一緒に過ごしたい。

雅也も、そう思ってくれているといいけれど。

新堂さんは大きく深呼吸をすると、

大志の方へと歩み寄った。

大志の身体が一瞬、小刻みに震える。

しかし、その緊張はまたたく間に解かれることとなった。

「大志、さん。……上のお名前は?」

「や、矢野です。矢野大志です。」

「矢野、大志さん。

 美園お嬢様をよろしくお願い致します。」

そう言うと、新堂さんは大志の右手をそっと握り締めた。

大志は身体の力をふっと抜き、

握られた右手にほんの少しだけ力を込めた。

「新堂さん、……ありがとうございます。」

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