俺のこと、好きになってよ。
● prologue ●
白と黒のモノトーンで統一された、ホテルのような大きな部屋。殺伐としていて生活上必要な物も少なく、
唯一家の主の色を見せるのは、表面ツルツルのバスケットボールのみ。
〜♩♫♬
そこに大音量で流れてきたのは、激しいロック曲。
演奏者は、テーブルの上にある黒い板状の携帯電話。今流行りのiPhone、最新型だ。
つまりこのロック曲は、電話の着信メロディーなのだろう。
「..…… Ah?. It is still sleepy…….
(ぁあ?うるさい。まだ眠むいのよ……)」
テーブルの側、白いダブルベッド。
のそのそと布団を深くかぶり直す少女は、高校生だろうか。いや、中学生か?
幼い顔で、年齢は不確かな少女。
〜♪♪
携帯は鳴り続ける。
「……?It is what. ……Only 30 minutes pass beginning still to sleep…… It is too thoughtless.
(……?何なんだよ。まだ寝始めて30分しか経ってないんだけど。……非常識過ぎるでしょ)」
時計を仰げばまだ朝の3時。確かに不躾な時間だ。けれど着信音メロディーは止まることのなく鳴り続け、止まる気配もない。
少女は仕方なく起き上がり電話に出る。
「……Hello,this is…………… え⁉︎ 父さん⁉︎」
バッ!と寝ぼけ目が急に見開いた。まるで冷水でもかけられたように、覚醒する。
『父さん』と、驚いた声は室内に大きく響いた。広い部屋から音が漏れることはないので、少女は遠慮などしない。
けれど、放たれたそれは先ほどの英語でなく、日本語である。
「はい…はい、元気です。……はい、ご無沙汰です。
いえ、そのようなことは。
……はい、わかっています……そうですね」
丁寧語で話す相手とは、あまり仲が良くないようだ。
携帯を握るその手は、だんだん強くなる。
しかし、目はどんどん光を失い、冷めていく。
その、相槌しか打たない会話がしばらく続いた。
社交辞令のようなそれは、父子(おやこ)のものに見えない。
______ボスンっ!
「は⁉︎ 今なんて言った⁉︎」
少女はなぜか急に腕を振り上げ、彼女の下……つまりベッドへと拳を落とす。
「……っ、失礼。父さん、それは “どういう意味” で仰っていますかっ!」
先に放った言葉遣いを直し、同意味の疑問を発する。
……発する、それは問いに対する答えを求めてはいなかった。電話口へ怒鳴っているような、冷静さの欠片もない声。
ふざけるな、と少女は思った。
「いや、しかしっ……………自分はっ!」
しかし。けれども。自分にだって。必死の主張も相手には届かずに、数分ののちに決着が付く。
「…………………っ。はい。分かりました。」
短くも長くもあった通話。
あの後の数分間、押し付けるような声色の言い合いが続いていた。けれど最後の気持ちを押し殺す声で、終結したようだ。
電話を切り、
少女は「くそっ」と呟き携帯を投げる。