急に女扱いされても困る
「お疲れ。」

改札の外には私服姿の龍がいた。坂木龍之介。同級生で幼稚園来の幼馴染。中神と同じくらいの長さでちょいちょい跳ねている黒髪、足が長くそれなりに背が高い。一緒に歩いていると嫌でも女子たちの黄色い声が聞こえるような奴だが本人はどうでもいいと言うように無関心だ。何に対しても無関心だ。
今は黒いTシャツにジーパンとラフな格好から見るにどこかに出掛けていた訳ではないらしく、僕は首を傾げる。
取り敢えず改札に出て、龍の元へ行く。中神もついてきた。

「誰か待ってんの?」
「お前を待ってたんだよ。母さんが今日メシ食いに来いって。」

それはとても嬉しい誘いである。龍の母さん…桂子さんのご飯は超絶おいしい。僕の両親は職場が同じで、片方が出張するともう片方もそれに合わせて出張の予定を突っ込むというアホ丸出しの夫婦である。そのせいで月2回はある出張中の期間は僕が自分で家事をしなければならず、料理も然り。ただ、あまり手先が器用な方ではないのでなんというか、不味くはないけどおいしくもないものしかできないのだ。

「来るだろ?」
「当たり前!」

僕はあの1年のことをさっぱり忘れ、少し中神に話すことがあるという龍を置いて先に歩き出した。


「あいつになんかした?」
「…してねえよ。なんで?」
「俺を見つける前、なんかいつも以上に疲れてたから。」
「幼馴染怖え…」
「で?」
「…時雨坂の1年に告られてた。」
「明は何て?」
「勢いはよくないっつってフってた。脈なしだ。」
「ふーん…わかった。じゃあな。」
「おお、じゃあな……明も大変だな…」

「あんな独占欲の塊みたいなのが幼馴染で。」
< 12 / 20 >

この作品をシェア

pagetop