最期
娘
父は仕事人間だった。
家庭を省みず、家のことはすべて母に任せきり。
幼い頃、3人兄弟だった私達は、だから父と出かけた記憶がない。
休みの日にはパチンコ、競馬、麻雀。
仕事以外はギャンブル三昧の父だった。
いつだったか、家族で動物園に行く予定だった日を思い出す。
確かまだ私達は幼稚園児だった。
朝から母はお弁当を作り、みんなでテンションが上がってたと思う。
さあ出かけようとした時になって気がついた。
――お父さんがいない
父はトイレに立て籠っていて、母が声をかけても返事がない。
何度か声をかけてようやく返ってきたのは……
「いってらっしゃい」
その一言だけ。
結局、父はそのままに4人で動物園に出かけることになった。
3人の幼子を引き連れて、駅に向かう道すがら、母はポロポロと涙を流す。
きっと悔しかったんだろう。
情けなかったのかもしれない。
「お母さん、どうしたの?」
「なんで泣いてるの?」
幼い私達は動物園に行くことが嬉しくて、誰と行くかは関係なかったんだと思う。
母は指で涙を拭いながら、ごめんね?と私達に言った。
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