最期
実際には言われたことのない感謝の言葉は、私にではなく同僚に語られてたらしい。


――言ってくれなきゃわからないじゃないの……


泣くつもりなんかなかったのに、涙がポロリと頬を伝った。




またある人は言う。


「ご主人には本当にお世話になりました」


頭を下げてそう言ったその人は、夫の口添えで息子さんが就職していたらしい。


自分の息子の進路には無関心だったくせに、と苦笑したけれど、それでも深々と頭を下げるその人を見ていたら、夫もいいことをしたんだと豊かな気持ちになった。




会社の人よりも、得意先の人の方が多く見えたことにも驚いた。


夫の営業力はそうとうなものだったのだろう。


地方に出張に行くことが多かった夫を思い出した。


そこで接待をいくつも重ねてきたんだろう。


今、線香をあげてくれているこの人も、以前夫に世話になったんだと、涙をこぼしてくれた。


仕事をとるために何度も訪れ、東京に来た際には、家族を野球観戦に連れていってくれたんだと言う。
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