最期
いつだったか、息子が私に聞いてきたことがあった。


「お父さんの会社の人が、お父さんが僕たちを野球見に連れてってくれていいねって言ってた」


その時の息子の複雑そうな顔。


行ったこともない野球観戦に、連れていってもらったと言われて、どれほど動揺したことだろう?


否定しなかっただけ、息子たちを誉めてあげたい。


夫に恥をかかせずにすんだのだから……


実際には、それは得意先の家族を接待として連れていっていたものだったらしい。


この時の話で、ようやくそのことに合点がいった。


「息子さん達の話もよくしてましたよ?」


そんなに顔も合わせていなかったというのに、夫はよく息子や娘を自慢していたと言う。


私たちが思うほど夫は家族に無関心じゃなかったんだろうか?


もしかしたら不器用なだけで、私たちに愛情を見せる術を知らなかっただけなのかもしれない。





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