阿漕荘の2人
練無side

「ねぇ小鳥遊くん」

「どうした、森川?」

今僕は友人宅にお邪魔している

ドアを3つ挟んだ森川邸だ




実は森川くんは無口なシャイボーイだが

横だか縦だか斜めだかの繋がりが
長く太く延びていて

何故かしらんがお得な情報通(テストや実験のレポートやら

で、大変頼れる存在だ


今日も少しながらの賄賂と交換だ

情報社会の慣れ果てであるなり


「小鳥遊くんさぁ、もうすこし
素直になった方がいいんじゃない?」

なんとも言えないくらい無表情で聞いてくる

森川くんは感情が表に出ないタイプなのだ

ババ抜きとか強いだろうな

「素直?僕の名前は練無だよ
ちなみにサラダはマリネだよ」
「いや、名前じゃなくて」

「なんだろうなぁ?僕、馬鹿正直者で
地元じゃ有名なんだよ」

「嘘つき」
「嘘だよ」
「香具山さんのことだよ」

ちょっと沈黙…
意図的に長るるなり

「?なんで?しこさんなの?
彼女は今日は芝刈りに行ってるよ」
「…川に洗濯に行ってるのは誰?」
「ネルソンかな?」

ネルソンとは犬である
阿漕荘で飼っている

まぁイロイロあって住み着いた犬だ

いつも阿漕荘の何処かの部屋に素泊まりしてエサを貰い

昼間は何処かへフラフラする

1人で?1匹で散歩が出来る賢い犬だ

しかし何故、保健所が連れて行かないのか
それもまた不思議な話である

きっと、阿漕荘の誰かが
裏で糸引いているに違いない

とんだスパイダーマンだなぁ。

「ここ壁が薄いから
廊下で話してる声、中まで筒抜けなんだよ」
「…そうだったね、
ちぇっ、僕としたことが」

「小鳥遊くん、僕は本気で言ってるんだよ

今日だってわからないよ

香具山さんが誰とお祭りに行ってるのかなんて」

「お友達だって」
「…だから、男かもしれないだろ
僕らは大学同じだからいいけど
香具山さんは違うんだし

z大のことなんて僕らは知らないんだよ」

しこさんは私立z大の学生だ
まぁしこさんはサボりすぎて
実際どれくらい通学しているのかは謎だが…

「森川…僕が貸したDVD気に入らなかったの?」

レポートのお礼の賄賂はDVDだ

えっ中身⁈


野暮ったいな

そんなこと聞くんじゃないよ
「…そうじゃなくて
早めにアクション起こさなきゃ誰かに持ってかれちゃうよ


香具山さん、見た目あんなだし、中身もまぁ、……
でもほら、今日みたいにさぁ
ちゃんと女の子の格好したら、なぁ?
わかってんだろ?」

「…なんだか森川…今日はやけにおしゃべりだね。

どうしたの、酔ってるの?」

「実は、小鳥遊くんがくる前に
お酒飲んでたんだ」

「ってかさぁ、森川、いつ見たの?
しこさんの浴衣を?ねぇ」

僕は手で持っていたレポートを机の上に置いて


麦茶を飲む


ーゴクリっ


「香具山さん、実はもっと早くに家を出たんだよ

その時にすれ違ったの


そしたらいつの間にか
部屋に戻ってきて

もう一回外にでて

キミとあったんだよ」


「えっ?なんで?」


「知らないよ。
忘れ物じゃない?」



今日の夏祭りは海浜公園で行われる

地下鉄に乗って30分

乗り換えを一回

決して近いわけではない

「何時ごろ?」

「すれ違ったのは4時頃だったかな」

森川邸にきて約1時間
時計の針は7時を示す

ということは、
さっきしこさんと会った時は午後6時


「小鳥遊くん、話を戻そうか

僕たちもう20歳だよ、いつまでも高校生じゃないんだ

はっきりした方がいいよ」

「しこさんは友達だよ」


暫しの沈黙…

本日2度目

「それ、本気でいってるの?
自覚ないの?」


「自覚って何?しこさんの事は好きだよ、でも、恋愛とかじゃないよ?

友人としてだよ
出来れば此処を離れて大人になっても
ずっと友達でいたいよ」

「……小鳥遊くんはそれでいいの?」

「なんのこと」

「香具山さんに恋人が出来たら
今までみたいには
いかないよ

キミは男で彼女は女の子だよ」

「…森川…
僕はその男だとか女だとか
性別で判断する考え方が一番嫌いなんだ

男女に友情があっちゃいけないのかな?

いつも恋愛対象としかならないのかな?」


「そうじゃないけどな
ただ、僕にはキミたち2人は
友情だけではないと思ってたんだよ

もしキミが本当に香具山さんのことを
友人としか見ていないのなら

キミは天然のタラシなんだね」


「垂らし?なにを垂らすのかな?

森川、飲み過ぎなんだよ、今日は
キミ喋りすぎだ

キャパオーバーなんだよ」

「…そうだね、
なんだか眠くなってきたよ

小鳥遊くん、僕は仮眠を取ることにするよ」


「いいよ、寝なよ

僕はレポートを終わらせなきゃいけないからね」



僕はレポートに目を移す
この調子じゃ、今日は徹夜だな……

森川邸に泊まろうかな……


練無は自分を振るいだたせる



しかし
その夜、しこさんは帰ってこなかった……


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