阿漕荘の2人

夏の終わり 6

練無side

森川くんの情報を頼りにm&aホテルにまでたどり着いた練無は

窓からの眺めから

高度を軽く計算して

紫子がいるであろう部屋を突き止める

地上15階建ての大手全国チェーン店ホテル


窓からは


隣の地上4階建てのビルにたつ

有名和菓子店の看板が


傾斜度約70度の位置に見える


ということは…sinを軸にして計算すると…



目的地は12階の左から3番目!


そこにしこさんがいる!!



練無はエレベーターが12階に着くやいなや

フロアを走り

目的の部屋をノックする


しかし

反応はない


でも……


僕の計算に間違いはないはず


きっとここであってる



ドアには鍵がかかっている



普通はここで諦めて

受付でスペアキーを貰う
だろうが

そんな時間は無いし


ホテルスタッフもそう簡単に

スペアキーは渡さない



となれば…


こり破るしかない



ドアの鍵の部分を壊し

緩めれば

ドアは開くだろう


練無は息を止めて、渾身の力を

右脚に集中させる


ドアが鍵を締める逆方向に


熱を加えて、摩擦力を生かす



よし、イメージは出来た


一発で決めなきゃ

相手に気付かれる


中にはしこさんがいるんだ


武器をもつ暇を与えてはいけない



練無は大きく身体を左横にねじる



彼の右脚が


かかとが


ドアの鍵を押し出すー



鈍い音がした


それがドアの音なのか


それとも練無自身の脚の痛みなのかは

わからない



そんなことは


どうでもいい


開いたドアを無理やりこじ開け


中へと走るー



ベットルームのドアを開けると



そこで練無が目にしたのはーーー


「なんだお前!

何者だ!!」


カメラを持った男と見知らぬ女を抑えていた男が練無に近づく

カメラをもった男は近くの花瓶に手をかけて

練無に投げつける

練無は後方へと身を翻す


花瓶は無残に割れ飛び散る



起き上がった練無はカメラ男の

あしの関節に蹴りを入れる

カメラ男はよろめいたが

練無の後ろから

ロープをもった男が飛びかかる


練無はすかさず破れた花瓶の破片を掴み

軽く脚踏みをし

ジャンプして相手に飛びかかる


よろめいた彼を倒し

首下の鎖骨下静脈に刃の先を突き刺す



男の血が勢いよく高く流れる


男が鈍い悲鳴をあげる


足蹴りを食らった男は

その姿に恐れおののき

後ずさりをする


練無は刺した男のロープを掴み

その男の手首を縛り

ベットの脚にくくりつける

血を出した男は気絶している


そして練無は

無表情で紫子の上に股がる男を見る


「…おいおい、

ずいぶんとひどいんじゃないが

彼、死んでしまうよ」


「死ぬ…?


あの血管はね、切られると始めはかなりの血が出るが

すぐに止まるんだよ

あの男は自分の血に驚いて


気絶しているだけ


なんなら、キミを捕まえた後に

ちゃんと止血してあげようか

仲間を救いたいなら

早く降参するべきだ」


「…馬鹿言わいでくれよ


仲間?違うさ、落ちこぼれの後輩に過ぎ

ないよ」


「…早くどけろよ」

練無は男を睨む


ヘビのような目をした男だ


「なにかな」

「その女からそのうす汚ねぇ股
はずせって言ってんだよ!!!」


練無は紫子に股がる男の首を掴む


しかし男は右手で練無の腹上を殴る


練無はよろめき、男はソファから降りる


「ゔゔっ………」


「…れんちゃん!!」


男は練無の胸板を掴み、床に伏せて

顔面を殴る


顔の骨格がズレるような痛み

が彼を襲う


もう一発決めようと男は高い位置から

拳を殴りつける


「れんちゃんーーー」






男の拳は練無の右手で差し押さえられる



練無は男の右手首を掴み

その手首の骨を逆方向に捻じ曲げる



人間の出す音とは思えないような


神経を逆なでするような音が鳴り響くとともに



男は高い悲鳴をあげた



男は右手首を抑え
もがき苦しむ



「…痛いだろうな……

でもちょっと関節ずらしただけだから

大したことないよ」


練無は顔を男に近づける


「…それ以上の抵抗は無駄だよ

……僕はね、人間の何処を切れば

一発であの世にいけるか知ってるんだ…

命が惜しけりゃ、降参することだ」

男は何も答えない

いや、全身に響く痛みで答えることができないのだ




練無は下着姿の紫子と櫻子の

手首の紐を解く


練無は紫子に自分が着ていた


上着を被せ、部屋をいったん部屋を出て

警察と救急車を呼ぶ


紫子は練無の上着を着て

櫻子は浴衣を直す


練無が部屋に再び戻り


気絶している男の止血を始める





部屋の中では紫子と櫻子が声を掠めて泣いていた
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